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第50号 たらいの水の原理

前回、『勉強ができる。頭がいい。テストの点が良い。』だけの子供より、優しい気持ち、思いやりをもった、人を癒してくれる子の方がいいですよね。という内容のメルマガに対して、たくさんの反響を頂きました。
 
今回はそのあたりをちょっと詳しくお話したいと思います。

ちょっとイメージしてみて下さい。あなたはツアーでハイキングに行きました。お昼を食べて、休憩中、きれいな高山植物を見て感動したあなたは
 
観察に夢中になって集合時間を忘れてしい、グループとはぐれてしまいました。困っているところ、同じようにグループからはぐれてしまった方がいて、「お互いに心細いので一緒に山を下りましょう。」ということになりました。
 
今、来た道を帰るのですが、どうやら道に迷ってしまったようです。小雨が降ってきて、霧も出てきたのでちょっと休むことにしました。
 
歩いて歩いてへとへとです。お腹も猛烈にすいています。でもお弁当はお昼に全て食べてしまいました。何かないか?と探したところ、ずっしりと重いアンパンがひとつ出てきました。
 
朝、出掛けに何気なくバックに入れておいたのです。相手の方は、トイレに行って今はいません。さあ。あなたはどうされますか?ここで、状況を整理してみましょう。

1、お互いに知らない同士。ほんの数時間前に知り合った。

2、ハイキングコースはそれほど過酷ではなく、遭難することはないと思われる。

3、アンパンはあなたのもの。もしかしたら、相手も何か食料を持っているかも知れない。

4、あなたは猛烈におなかが減っている。アンパンは大好物。

さあ。どうします?選択肢は二つあると思います。今のうちに全部食べちゃうか?帰って来るのを待って、半分食べますか?と聞くか。
 
今のあなたはどちらを選んでもかまいません。

でも、後者を選んだとき、どんなことがおきるかを考えてみたいのです。もう一人の方が帰ってきました。勇気を出して言ってみます。
 
「おなか減ってませんか?」「アンパンがひとつあるのですが、半分づつ食べませんか?」相手の方はどう思われるでしょうか?少なくとも「こいつ、うるせーなー」とは思わないでしょう。
 
もし、私が相手の方なら(黙って食べちゃうことも出来たのに、待っててくれたんだ)(優しい人だなぁ)と思いますよね。そして、(私は遠慮はしないので)

「ありがとうございます。わざわざ待っててくれたんですか?」「ありがたく頂戴します。」と言って、アンパンを半分頂き、喜んで食べることでしょう。
 
そして、たった半分のアンパンで信頼する気持ちが起き、その後の道中も協力し合いながら乗り切れるでしょう。
 
この時の、あなたの気持ちを考えてみてください。相手が喜んでくれた。自分に感謝してくれた。その姿を見ることで、
 
「待ってて良かった。」「半分あげてよかった。」「こんなに喜んでくれた。」とおなかは満腹にならないかも知れないけど、心は一杯に満たされたはずです。
 
自分の欲望を満たす半分を相手に与えることで自分は『欲望を満たす以上の喜び』を得ることになるのです。これを二宮尊徳は「たらいの水の原理」と言いました。
 
水を張った大きなたらいにバラの花びらを浮かべてみましょう。そして、それを全て自分の方に寄せようとします。荒っぽかったり、ばしゃばしゃと強くすると、バラの花びらは波と一緒に沈んでしまいます。
 
そうっと手でかいて自分の方に寄せても、手前の縁にあたり、丸い縁伝いに自分の所から離れていってしまいます。
 
しかし、バラの花びらを相手側に送ったらどうでしょうか?波は花びらを浮かせたまま、相手側の縁にあたって、相手の縁伝いに波に揺られて花びらは次から次からこちらに戻ってくるのです。
 
その波は止まる事を知りません。流れができると、どんどん花びらは流れてきます。自分の欲を満たす時には、それだけで終わり。
 
でも、人への施しは何倍にもなって返ってくる。これがたらいの水の原理です。それを、私は『善循環』と言っています。
 
と言っても、私は宗教家の方々が言うように、自分以外の全ての方に施しをしなさい。と言うのではありません。
 
実は、私はこの法則を知ってから、さまざまな場面で試しました。しかし、大勢の方に施しをするというのがとても大変だと感じましたし、なかなか返ってくる喜びを経験することがきなかったのです。
 
ところが、子育てにこれを応用すると、すぐに反応があり、すぐに何倍にもなって返ってくる事を感じたのです。
 
もちろん施しは物ではありません。「言葉」だったり「態度」だったり「思い」だったりします。親が子供に対して認める言葉、褒める笑顔。包む態度。そんな思いの全てが『施し』なのです。
 
子供は親のしぐさを真似ます。あなたが掛ける子供への言葉やしぐさは、そのままあなたや他人への言葉やしぐさになります。
 
子供を認め、褒めて育てる人の子供は、他人を認め、褒める言葉を発します。子供を思いやり包むことのできる親に育てられた子は人を思いやり包むことができるようになるのです。
 
そんな子供たちを見た周りの大人は必ず「いい子だね。」って言ってくれます。その言葉を聴いたあなたは、又喜びを感じますし、その言葉を聴いた子供達はよりいっそう励まされるのです。
 
今、学び、少しづつ進まれた方々の周りで、その現象が起きつつあるのを知って、私は大変な喜びを感じています。
 
全ての人に感情があります。そして、認められたいという欲求があります。その欲求が満たされたとき、誰もが喜びを感じます。喜びに満たされた毎日、これほどすばらしいものはありません。
 
 
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